薄気味悪さを気持ち良く

『うわ~きもちわり~うわ~ヤダ~』

 

2015年1月11日放送●SORASHIGE BOOK

 

・オープニング

『KAGUYA』リリースされたばかりだけどたくさん感想が届いているそうなので、その紹介から。

〈「KAGUYA」聴きました。部長の言っていた通りサイバーで古い言葉も入っていてとてもかっこよかったです〉

〈想像していたよりもアップテンポでつい口ずさみたくなりました。いままでの楽曲とはイメージが違いますが一番好きかも。MVも色鮮やかで、部長の色香を感じました〉

「KAGUYA」は耳に残るおもしろさ、かっこよさはさることながら、MV・ジャケットは蜷川実花さんに撮っていただいたことも見どころのひとつ。ダンスもおもしろく、チャンカパーナを彷彿とさせるので楽しんでもらえたら。「ひとつひとつの意味なんかも、あ、なるほど、と思う部分もあるかも、しれ、ま、せ、ん、ね…ふふ(笑)」

 

・音楽部

大瀧詠一夢で逢えたら

大瀧詠一さんの葬儀の際、未発表曲として流された本人歌唱の「夢で逢えたら」。悼む意味を込めてシゲ部でもかけたいとのことで、リリースされたベストアルバムより選曲。

 

・おたより

少し前になるけれど『シュシュアリス』に掲載した短編『イガヌの雨』の感想。読むタイミングがなくて申し訳なかった。「いっぱい来てるんでいっぱい読もうかな、今日は」

〈『イガヌの雨』を読んでいくうちに死んだ父を思い出しました。父は料理人で小さいころから父と母のおいしい料理を食べていました。私は高校卒業までカップ麺を食べたことがありませんでした。この話を読んで父の料理の数々を思い出すことができました。不思議なお話でしたがあったかい気持ちになりました〉

図らずもそんな似た境遇の方に読んでいただけたなんて、とびっくりする部長。カップ麺など、「おいしくて健康で便利」の裏側にあるものを食を描くにあたって書きたいと思っていたのでとても嬉しい。

 

〈一番好きな作品だと思いました。くせになる不思議な作品でした。イガヌは内側から支配することに成功したエイリアンだと考えるととても恐ろしい。部長の紡ぐ「気味悪さ」にぞっとしながらも病みつきになってしまいそうです〉

「なるほど、嬉しいですね」いろんな作品を参考にしていつも書いているけど、こういう「侵略」というか、人類以外のなにか・人類VSで思い出すのが「ウルトラマンセブン」のメトロン星人の話。宇宙人が侵略してくる話は「レーザー目から出る!」みたいな、物理的に攻撃してくるイメージがあるかもしれないけれど、メトロン星人は日本人の煙草に感情をコントロールできなくなる物質を入れて攻撃してくるんだそう。そうすると人間同士が互いに憎み合って喧嘩する。メトロン星人の話は最終的にはちょっとおもしろくなっちゃうらしく、ウルトラマンセブンがメトロン星人を見つけたときメトロン星人は和室のちゃぶ台の前に座っているんだとか。

結局すぐやられてしまうメトロン星人。彼は信用を壊すことによって人間を殺そうとしたけれど失敗した。最後にはそれが間違いで、「人間はそれほど信頼しあってませんよ…?「キャ~~(高音)」みたいな終わり方になるらしい。その話がすごい好きで、みんなが幸せになってることが逆に怖いという感じで書きたいと思っていたのでこういう感想も嬉しい。

 

イガヌ(「読んでない人からしたらなにかわかんないと思うんですが」)を食べる派、食べない派もおもしろかった。

〈食欲の失せる後味の悪い小説にいい意味でぞくぞくしました。食をテーマにした小説を何冊か読んだことがありますが、ここまで食に対して嫌悪感が残る作品は初めてでした。食事前に読むとダイエットに貢献しそう〉

「まあね、『シュシュアリス』の特集もダイエットですからね…(笑)」

 

〈まったく違う食の見え方があり、さすがだなと感心しました。美鈴は祖父のことを思い涙しながらもまたイガヌを食べてしまうのでは〉

自分ならどうするかをみんな考えてくれるみたいで、傾向としては男の人は食べてみたいという人が多いかもしれない。イガヌのビジュアルはグロテスクだけれどそれを食べてる人間の方がもっとグロテスクだったりする。「って他人事みたいに言ってますけど(笑)」

 

〈SFでありながらも現実味がある物語だと思いました。2015年、小説家加藤シゲアキとしての目標は?〉

「どうですかねー本当に」短編が楽しくて新しいジャンルに挑戦できるので、ホラーなども若干やってみたい。一方で『染色』のような純文学的な話も書いてて楽しかったし好きなので、ジャンルにとらわれず、かつわからないなというところに落とし込まない作品を作り続けたい。どこかで上下巻で各巻400ページ超えなどのすげー長い長編も書いてみたい。「何年かかんだって感じですけどね」

もし本当におもしろい上下巻ができたら自分としても自信がつくと思うし、脚本とかもお話さえあれば全然やってみたいと意欲をあらわにする部長。短編をやっていて勉強になることもあるし体力的にも集中力的にも向いてるけれど、短編ばかり書いていると長いものも書きたくなるかもしれない。2015年も書いてはいるでしょうと今年の作家的活動を予想する。「ここまできたら続けていきたいなと思っているので」

自分のひとりよがりなら寂しいといつも思うけどみんなが楽しみにしてくれているので頑張りたいと語る。

 

〈読み終わって感じたことは「これ苦手だ…」。ぞくぞくして夜中に読んでいたらすごい引きずってしまいそう。『スノーピアサー』を観たときの感じと似てます〉

「僕もドSなところがあるんでしょうね~、『うわ~きもちわり~うわ~ヤダ~』、ヤダイイみたいなのが大好物だからね、書いちゃうよね(笑)」苦手だなという感想は正しいのかもしれない、とどこか楽しげに語る部長。

 

〈今回もただおもしろかったでは伝えきれないぐらいおもしろかったです(「ありがとうございます」。イガヌの由来やモデルは?〉

架空のものを作るときは難しい。いろんなところでイガヌのアナグラムが考えられていて、実際に名前の由来はそれ、というのもあったけどここで言うのはいやなので秘密。みんなすごいプロファイリングだなと感心した。

食を制限されたときにどう動くか、欲と環境のバランスってすごく難しい。頭じゃわかっているけどやめられないというのもたくさんある。イガヌのビジュアルはスタッフと話しながら、これだったら気持ち悪いよねとなんとなく作りつつも、具体的に作り込みすぎないことを意識した。読んでいてそれぞれの人が質感などを自由に想像してほしい。決め込まずに書くことでより気持ち悪くもかわいくも想像できる。そのためビジュアルのモデルはいない。

 

○主観

初めてラジオでおたより読まれて瀕死。まさか読まれないだろ~でもまあ感想言いたいしいっか~て軽い気持ちで出したらまさかの…まさかの…もう一生分の幸福を使い果たしたんじゃないかと思う。我が今生に一片の悔い無し。さらば地球よ。完。