人間と鳥との間に観測されうるいくつかの対極的事象

マジックリアリズム

 

2015年5月3日放送●SORASHIGE BOOK

 

・オープニング

「久々のこの、リバーブスタジオですかね(笑)」わけあっていつものスタジオではないところからお送りする今回のシゲ部。

〈短編集の話を聞いてますます楽しみです。何気なく読んだ『恋愛小説(仮)』をきっかけに部長とNEWSに夢中になりました。短編集では手を加えている作品もあるとのことで読み比べができるのも楽しみです〉

「いや~~そんなことがあるんだなーと。きっと『ダ・ヴィンチ』読者の方なんだと思いますけども」『恋愛小説(仮)』もわりと、まあまあ工事をした部分もあるのでより好きになってもらえると嬉しい。最近はようやく1年の恒例というか、小説関係の取材も増えてきていよいよだなと感じになってきている。表紙のイラストもいままでとは打って変わっておもしろいものになっているそう。装丁はいつも編集の方たちが、目立つもの、印象に残るものと一生懸命考えてくれるので、自分の作品ではあるけれど装丁に関してはいち装丁ファンとして楽しませてもらっている節がある。『恋愛小説(仮)』『アンドレス』『染色』は少しずつ変えてきているとのこと。

短編は好きな作品が人によって分かれるので聞いているだけでおもしろい。いまはゲラもほぼほぼ終わりゆっくりできる時間なので、映画を観たり本を読んだりしてインプットタイムとしている。「今日は映画の話をするかな」

 

・音楽部

SAKEROCK ラストアルバム『SAYONARA』より「SAYONARA」

〈先日発売されたSAKEROCKのラストアルバム『SAYONARA』は聴きましたか?表題曲「SAYONARA」は素敵な音楽なのでぜひシゲ部でもかけてほしいです〉

「さよなら」なのにあったかく、笑顔で手を振っているような曲で、聴いていると街中でスキップしたくなるようなかろやかさがある。メンバーの新しい門出を応援するという意味も込めて。

 

・おたより

〈初めてメール送ります。私は映画が大好きなのですが、どうして部長はネタバレせず、人を「観に行きたい」という気持ちにさせられるのですか?研究の仕方などあれば教えてください!〉

「自分で上手いなんてことは少しも思っておりませんが」もともと映画評論やラジオを読んだり聴いたりしてきたということがいくらかあるだろうと言いつつ、僕がしゃべってるからというのもあるのでは?と推測する部長。

4月は本当に大変で、『バードマン』に関するおたよりがすごい数送られてきているんだとか。そのうちのいくつかを紹介。

 

〈『バードマン』観ました。重く暗い映画かと思っていたらそうではなく、幻想と現実がミックスしたりファンタジックでドキドキすると同時に、刺激になりました〉

〈『バードマン』、賛否両論あるようですが(「おおむね賛なような気がしますけどね」)解釈もいろいろあっておもしろいと思いました。観終わったあと『ピンクとグレー』を思い出しました〉

〈『バードマン』、早くも今年一番の作品と思うほど最高でした。緻密で素晴らしく、人間の悲哀もしっかり描かれていて、演出も含めてぜひ劇場で観なければと思う作品です〉

『バードマン』は本当に楽しみにしていた作品でネタバレ0で観に行ったので、「こういう映画なんだな」とけっこうびっくりしたとか。過去にヒーロー映画で一世を風靡した人が、いまは舞台をやりたいと奮起して自身で脚本や演出もやるという内容で、ストーリー自体はとてもシンプルでわかりやすい。その舞台というのが、去年ちょうど部長も読んでいたレイモンド・カーヴァーの短編集『愛について語るときに我々の語ること』で、これを舞台向けに脚色した映画をするという演出になっている。劇中劇的な感じがするので『ピンクとグレー』を思い出したという感想があったのかもしれないが、部長としてはどちらかというと『Burn.』のときに考えていたことと一緒なんだそう。

この映画のタイトル『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』は原題を直訳したもので、やたらかっこいいと思っていたけれど、このタイトルを見た時点でレイモンド・カーヴァーに対するオマージュだと気づくべきだった。レイモンド・カーヴァーについてふれるとまた長くなるけれど、たとえば彼の作品タイトルは『頼むから静かにしてくれ』『必要になったら電話をかけて』等々、とてもかっこいい。部長は彼の作品では『ニジマス*1』が好きだとか。他にも『ダンスしないか?』『ミスターコーヒーとミスター修理屋』や、とにかくタイトルがかっこよく、ずっと見ていられる。『足元に流れる深い川』、『私の父が死んだ三番めの原因』、『ぼくが電話をかけている場所』、『ささやかだけれど、役にたつこと』(原題:A Small, Good Thing)のようなクールなものが多い。

これを知っていると大興奮できるのでカーヴァー好きは『バードマン』を観なければいけない。『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』の原題は "BIRDMAN OR (THE UNEXPECTED VIRTUE OF IGNORANCE)." で、これも本当にかっこいい。『愛について語るときに我々の語ること』という短編小説ははっきり言って舞台向きではないのに、なぜ舞台化したいのかという理由についても作中で語られる。

そもそもカーヴァー自体とても過激な人生を送っていて、それも知っているとさらにおもしろい。かつて『バードマン』というヒーロー映画で一世を風靡したマイケル・キートン自身(「すごくメタ構造」)、かつて『バットマン』の主演で、『バットマン』をやっていた人が『バードマン』という役をやるというあてがきのような作り。現実とフィクションの境界線がすごく曖昧、なのにかなりリアルで、ライアンやロバートといった役者の名前が実名で出てくるところにもかなりリアリズムを追求している。と思いきや、オープニングでマイケル・キートンが座禅を組んで浮いてるシーンがあり、リアリズムとわかる前にフィクション性の高い話だと打ち出される。リアルとファンタジックなものが行ったり来たりする作品で、ワンカット風の演出も含めてリアルなのにとてもファンタジック、リアリズムとそうでないものが混在している。それを難しいと言う人もいるけれど、こういう「マジックリアリズム」は部長の大好きなゾーンなんだそう。「たぶんしばらく『マジックリアリズム』ものは流行ると思う」

部長がいま書いている書き下ろし『にべもなく、よるべもなく』でも偶然そういったものを使ってみようと思ったのでおもしろい。『バードマン』は音楽もすごく、特にドラムが印象的なんだとか。そしてドラムと言えば『セッション』。『セッション』こそ各所で論争の的となっている作品でとても感動したので、このお話はまた来週。「語りまくったね(笑)」

 

○主観

今日のシゲ部は内容が濃すぎてメモする手が追いつかず、あまりの痛みに涙目になりながら聴いてた。いっそのこと速記を習おうか真剣に悩む。

短編のお色直しってどれぐらい変わるのかな。まさか結末ががらっと変わるなんてことはないと思うけど、読み比べするのが楽しみなようなちょっと怖いような。

*1:正しくは『サマー・スティールヘッド(夏ニジマス)』か?