悔やまない、好きだからこそ

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(この記事は「#おたく楽しい Advent Calendar 2015」へ捧げます)

 

このブログでもすでに幾度かこぼしているが、わたしはかつて劇団四季のオタク、いわゆる四季オタだった。大学1年生の秋に初めて劇団四季ミュージカルと出会って以降、わたしの学生生活は常に劇団四季と、そしてファンになった劇団四季のダンサーさんとともにあった。暇さえあれば観劇に行ったし、暇がなくても観劇に行った。一に観劇二に観劇、三四五から百まで観劇。バイト代のほぼすべてをチケット代とチケット代とチケット代と交通費とダンサーさんへの差し入れ代に突っ込み、貯金ゼロでも嬉しさいっぱい幸せいっぱいににこにこしているような学生だった*1

そんな学生時代から幾星霜、さまざまな事情を経て現在はオタ卒してしまったため、最近はときたま観劇の湯に浸かる程度でオタクと言えるほど頻繁に観ているわけではない。しかし劇団四季は、まぎれもなくわたしの学生時代そのものだった。当時のわたしは持ちうるかぎりすべての愛と、時間と、お金と、それらに表される誠意をそこに捧げていた。それはとてもとても幸せなことであったし、その生活に非常に人間的な満足を得ていたのだ。まさに清く正しく美しいオタクだった。

 

今日は、そんなふうにひとりの人間の生活を彩った劇団四季のミュージカルが、いかに素晴らしい演劇エンターテイメントであるか、個人的な「四季オタをすること」の話もまじえながら語っていきたい。

数ある劇団の中でももっとも大きな劇団のひとつである劇団四季。その魅力が少しでも伝われば幸いである。では、開演。

 

***

 

0.四季オタがよく使う略称・用語

「今月WSS先行あるから限度額やばいかも><でも来週のCFYリハ見、○○さん出るかもしれないから絶対行きたいし、有給も取れそうだから前予しようかな…てかアルプ届いたんだけど今月の楽屋やばいねLKカンパニーまじ愛しい♡今週の土曜リトマLKでマチソワするからだれか会える人いたら会お~」

突然なんだこれは、と思われるかもしれない。この文章は四季オタがよくTwitterに投稿しそうなことを想定して作成した四季オタツイート例文であり、一見普通のツイートのように見えるが、四季オタ独特の用語や略称が多数使用されている。ジャニオタ界同様四季オタ界にも独自の言い回しや用語がある。

上記の例文を意味のわかるものにするため、本題に入る前に、四季オタ界隈でよく聞かれる略称や用語を軽く紹介しておこう。公式に使用されているものではもちろんないが、四季を好きになりたてのころ、わたしはこれらの語の意味がなかなかわからず苦労した思い出がある。Twitterなど文字数に制限のあるSNSではこうした略称は非常に便利で、当たり前のように使われている。これらの語から四季オタたちの日常を感じ取っていただけるのではないかと思う。

 

【演目略称】

ACLコーラスラインA CHORUS LINE)

AOL:アスペクツ・オブ・ラブ

BB:美女と野獣Beauty and the Beast)

CFY:クレイジー・フォー・ユー

JCS:ジーザス・クライスト=スーパースター

LK:ライオンキング

SOM:サウンド・オブ・ミュージック

WSS:ウェストサイド物語(WEST SIDE STORY)

ウィキ:ウィキッド

オペラ座オペラ座の怪人

猫:CATS

ユタ:ユタと不思議な仲間たち

夢醒め:夢から醒めた夢

リトマ(LM):リトルマーメイド

 

また、演目だけでなく作品のナンバーも略称で表されることもある。たとえば『美女と野獣』の「ビー・アワ・ゲスト」は「BOG」等、挙げだしたらきりがないがどれもとても使い勝手が良く、これらを日常会話に織り交ぜていくと四季オタ度がどんどん深まっていく気がする。それはちょうどカウントダウンコンサートをカウコンと略したときや、ジャニーズワールドをジャニワと略したときのようでもある。

 

【四季オタ的重要(?)用語】 

アルプ:ラ・アルプ。毎月上旬に発行される四季の会の会報。演目解説や役者インタビューはもちろん、稽古場写真、各演目にて開催されたイベントレポやイベントカレンダー、「楽屋の窓から」*2等々、内容はかなり濃いめ。アルプを片手にジャニーズのFC会報のペラさを思うとかなしい気持ちになったりならなかったり。

 

オフステ:オフステージトーク。本編終演後に行われるトークイベントで、出演キャスト(のうちの何人か)がその演目に関するトークを行う。参加者に事前記入してもらった質問用紙をランダムで引いて答えるコーナーがあったり、ときたま行われる大規模なオフステでは参加者をグループごとに分け、各グループに数名のキャストがついて交流したりと、普段はなかなか経験できないような内容であることもある。キャストたちの素の顔や自然な関係性が見られる貴重な機会のため、中には有給を取って参加する積極的なファンも多くいる。

 

カテコ:カーテンコール。観客がキャストに、スタッフに、そして舞台に、ありったけの感謝と拍手を贈る場。拍手が続けば続くほどカテコも繰り返され、3回目、4回目ごろにはその演目ならではのアレンジが入ることもある。また、クリスマス期間のみに行われるクリスマス仕様の特別なカーテンコールはクリカテとも呼ばれている。

 

キャス変:キャスト変更。基本的に毎週月曜朝10:00に、その週に出演予定のキャストが演目ごとに更新される。出演者予定は役者ファン・ダンサーファンの活動の主軸ともなる重要な情報なので、Twitterではときに阿鼻叫喚の展開が見られることもある。ただし、劇団四季は「だれが演じようと同じ質を提供します、中の人なんていませんよ☆」というスタンスであるため*3、このキャス変が絶対であることはけっしてなく、週中キャス変・当日キャス変などで突然変わる悲劇も十分ありうる*4

 

キャスボ・キャス表:キャストボード・キャスト表。各劇場に設置されているキャスト一覧のボードと、キャストの名前が印刷されたメモ用紙サイズの紙。多くの四季オタは劇場に来たらとりあえずキャスボの写真を撮り、「CFYソワレ来た~!楽しみ!」「○○(キャストの名前)グリンダ初見!」などという一言を添えてTwitterにアップする儀式を行う。キャスト表は自由に持っていけるようになっているが、一人一枚がマナーだ。

 

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2015年9月15日 CFY川口公演にて

 

サンボ:アンサンブル。名前のない役を演じるキャストのこと。『ライオンキング』で言うところの草やハイエナ、『美女と野獣』の町の人たちや野獣の召使いたち、『ウィキッド』でのシズ大学学生やエメラルド・シティの人々など、一人のキャストがさまざまな役をシーンごとにこなす。それぞれのアンサンブルは「枠」で数えられ、たとえば「BBの男性サンボ7枠はタウン*5で羊飼い、BOGでフォーク」などと表現する。四季オタの中でもサンボオタは、何人もいるアンサンブルの動線や何枠がどのシーンで何役かをすべて頭に入れていたりする。すごい。*6

 

四季の会:劇団四季のファンクラブのようなもの。入会金1500円、年会費2000円と大変お手頃ながら、チケットの先行予約特典はもちろん、一般では9800円もするS席が8800円で購入できたり、本来郵送費のかかる紙チケットが無料で郵送されたり、他にも毎月発行される会報『ラ・アルプ』や会員限定イベントへの参加等々、実にさまざまな恩恵に与ることができる。S席に年2回座ればそれだけで元が取れると考えれば非常にお得のため、入会してけっして損はないだろう。ジャニーズのファンクラブとは大違いである。

 

先行:会員先行予約、またの名をチケット戦争。演目ごとに日にちが決まっており、毎月土日のどちらか、朝10:00に開始される。PC・スマホ・電話とすべてを駆使しても、開始後30分は前世でよっぽど徳を積んだ人間でなければつながらないのではと思われるほどつながらず、1時間以上その状態が続くこともざらである。開始と同時に「つながらない」「重い」「絶望した」等のツイートがTLを埋め尽くす。四季オタであればだれもが通る道であり、あまりのつながらなさに心が折れるかもしれない。しかし、大切なことは諦めないことである。戦わない者のもとにチケットは来ないのだから。

 

前予:前日予約。明日あの演目に行きたい!と思ったとき、急なキャス変で明日大好きな○○さんがあの演目に出演することになったとき、迷える人々の強い味方、それが前予というシステムである。四季の会会員は14:00~電話でチケット予約をすることができ*7、回線が混み合うためすぐにはつながらないものの、タイミングが良ければけっこう良い席が取れたりする。行きたい日のチケットが売り切れでも諦めず前予することが肝要だ。戦うことを諦めなかった者にチケットの女神は微笑むのだから。

 

バクステ:バックステージツアー。本編終演後、文字通り舞台裏を見学したり学んだりすることのできるイベント。普段は聞けない演出や照明に関する話や、間近で目にすることのできない小道具なども見られるため、その演目をより深く知り、理解するには絶好の機会である。実際、参加者にはキャスト目当てのファンよりも演目そのもののファンの参加が多いように思われる。

 

ファミミュ:ファミリーミュージカル。子どもも含め、家族みんなで楽しめるミュージカル作品。『ユタと不思議な仲間たち』や『夢から醒めた夢』他、ファミミュ作品は多数あり、子ども向けといえど大人でも楽しめる内容となっている。終演後キャストによる「お見送り」があり、出演キャストがロビーに出て観客を見送ってくれる。握手をしたり少しお話したりすることも可能で、そういった交流ができることもファミミュの魅力のひとつである。

 

リハ見:リハーサル見学会。普段から本編上演前に行われているリハーサルを見学することのできるイベント。オフステやバクステと異なり、非会員でも参加できる場合が多い。どのシーンのリハーサルかは実際に見てみるまでわからないが、イベントである以上やはり見せ場となるダンスシーンであることも多く、特にダンサーファンならぜひ参加しておきたい。リハーサル後にはちょっとしたトークタイムが設けられている場合もあり、キャストたちが事前に回収した質問用紙からランダムに答えたり、その場での挙手による質問に答えたりする場合もある。オフステと並びキャストファンにはたまらない人気のイベントである。

 

 以上、非常に個人的な選出ではあるが、これさえ抑えとけば四季オタライフがよりスムーズになること間違いなし!の用語たちを紹介させていただいた。教科書であれば必ず太字であり、資料集でも見開きで特集が組まれてしかるべき重要用語群なので、ぜひ蛍光ペンでマーカーを引いておいてほしい。

最後に前掲した例文をいま一度振り返ってみよう。いまならきっとその意味が正しく伝わるはずだ。

「今月WSS先行あるから限度額やばいかも><でも来週のCFYリハ見、○○さん出るかもしれないから絶対行きたいし、有給も取れそうだから前予しようかな…てかアルプ届いたんだけど今月の楽屋やばいねLKカンパニーまじ愛しい♡今週の土曜リトマLKでマチソワするからだれか会える人いたら会お~」

これをそのままコピーアンドペーストTwitterに投稿すれば、今日から君もりっぱな四季オタだ。

 

1.劇団四季ミュージカルの特徴

劇団四季と言えばだれもが存在を知っているほど大きな劇団だが、実際そのミュージカルにはどういった特徴があるのか?ほかの劇団との違いはなにかについて、ここでは軽くさらっていきたい。

わたしが四季オタをしていた際、四季オタではない人からよく聞いたのは、「劇団四季の舞台は感情が感じられない」「台詞の発音がはっきりしすぎていて、聞き取りやすいが気持ち悪い」などといった、非常にクセのある台詞回しに関する評である。劇団四季の話し方を聴いたことがない方のために動画をひとつ貼っておく。

 

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確かに劇団四季の役者の発声は、いかにもわざとらしいほど一音一音がはっきりしているため、好き嫌いが分かれるのも頷ける。しかし、なぜそうした言い方をするのか、そこには劇団創設者・浅利慶太氏の信念が貫かれていることを広く知ってほしいと思う。

この独特な発声にはいわゆる「劇団四季メソッド」と呼ばれる、台詞を、台詞の表していることを、観客に正しく伝えるために劇団四季が確立した方法論が深く関わっている。「母音法」「呼吸法」「折法(フージング法)」の3つから成り立つ「劇団四季メソッド」の詳細については浅利慶太氏の著書*8などを参考にしてほしいため、ここでは軽くさわる程度に留めたい。

 

①母音法

文字通り、母音(ア・イ・ウ・エ・オ)を用いた発生練習。出演キャストは稽古前に必ず、台詞をすべて母音で発音するトレーニングを積む。

②呼吸法

腹式呼吸を用いる。1カウントで息を吸い、「アイウエオ/イウエオア/ウエオアイ/エオアイウ/オアイウエ」を1ブレスで発声し、以降ワ行まで同様に行う。

③折法(フレージング法)

 身体を使って行う前者2法とは異なり、豊かな想像力が要求されるのがフレージング法。台詞の構造を理解し、意味の変化(=折れ)が起きているところでブレスをとる。

 

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一つひとつの音を分離させ、また、折れを意識して台詞を発することで、観客に伝わりやすい舞台をつくりあげていく。感情移入するだけの演技以前に、観客へ言葉を届けることを重要視した劇団四季のこうした信念、そのためのメソッドは、非常に理にかなっているとわたしは思う。実際、劇団四季以外の舞台を観に行った際は四季の台詞回しに慣れきってしまっていたせいもあり、言葉が聞き取りにくい状況に多々陥った。それはそれで演技の味なのだろうし、それこそが自然とする考え方も理解できる。しかし、演技とは観るものに伝わって初めて成立するものではないだろうかと思うと、やはりわたしは劇団四季発声法を支持したい。

…というより、四季独特の話し方も慣れたらなんてこと思わなくなる、どころか、これぐらいはっきりしてないとなんか物足りないかもぐらいの気持ちになってしまうのだ。いやほんと。

 

2.タイプ別!おすすめの演目

ここからは実際の演目を挙げながら、劇団四季が上演している演目にはどんなものがあるのか、その魅力、見どころについて語っていこう。用語やら方法論やら、おかたいことばかりつらつらと述べてしまったが、もうそんなことはどうだっていい、いやどうだってよくはないが、いったん前2項の内容はすべて忘れてほしい。わたしは元四季オタとして、そしていまでも四季のファンとして、とにかくただシンプルに劇団四季のミュージカルを観てほしい、四の五の言わずに観てほしいのだ。いつだって舞台はそこで生きている。

しかし、ミュージカルというと敷居が高くてなかなか観に行けない、たくさんあってどれを観ればいいのかわからないと思われる方も、もしかしたらいらっしゃるかもしれない。そこで自由という御旗のもと、わたくし個人の独断と偏見と主観で各テーマごとにおすすめの演目を紹介していく。どれかひとつでも、気になるかも、観てみたいかも、と思われた演目があったならぜひとも気軽に劇場に足を運んでほしい。

 

・突然歌が始まるのってなんか不自然じゃない?派へ

⇒安心してください、99%歌で構成されている演目もあります。

 

①キャッツ

わたしが四季オタになったきっかけとなった演目がこの『キャッツ』、読んで字のごとく、猫。登場キャラクターは猫のみ、開演から終演までいっさい人間が登場しない猫の猫による猫のための(?)ミュージカルである。

都会のごみ捨て場に暮らす”ジェリクルキャッツ”たちが、天上に昇るただ一匹の猫を決めるため年に一度開かれる”ジェリクル舞踏会”に集まって歌い踊る。オムニバスのような構成で各ナンバーに直接的な関係はあまりなく、他のミュージカルのように一貫した物語性は薄いかもしれない。しかし、かの有名な「メモリー」を筆頭にアンドリュー・ロイド=ウェバーが贈る珠玉のナンバーや迫力のダンスシーン、役者たちの猫よりも猫らしい動きは観る者を必ず魅了する。「猫は犬にあらず」、猫たちの語りかけにはっとさせられる。

また、カーテンコール前に握手タイムがあり、猫たちが客席に降りてきて通路側~3席めぐらいの観客と握手をしてくれるのも楽しみのひとつである。*9

 

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 現在、北海道四季劇場にて上演中。来年7月からは大阪での上演が決定している。

 

②エビータ

アルゼンチンの元大統領ホアン・ペロンの妻であり、民衆から女神と讃えられたエバ・ペロン(=エビータ)の生涯を描いたミュージカル。田舎の私生児からファーストレディーにまで上りつめた彼女は33歳という短さで人生の幕を閉じるが、その激動の生涯は観客の心を強く揺さぶる。『キャッツ』のアンドリュー・ロイド=ウェバーが綴るナンバーはやはりどれも素晴らしく、「ブエノスアイレス」「共にいてアルゼンチーナ」「虹の如くに」等々、太陽のように、あるいは月のように、さまざまな表情をもって舞台を彩っている。

また、エビータのきらびやかな衣装を始め、みんな大好き軍服や貴族のドレスなど、視覚的にも華があるのも特色のひとつである。ぜひとも多くの人に観てほしいのだが、2012年に東京・自由劇場で上演して以来再演されておらず、上演頻度が異様に低いのが残念…再演を強く求む。

 

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③壁抜け男

平凡な役人デュティユルがある日突然壁を抜ける能力を得、人生が一変していくさまを、ときにせつなく、ときに美しく、またときにコミカルなナンバーとともに綴っていく、ちょっぴり大人向けのおしゃれで不思議なフレンチミュージカル。デュティユルは人妻イザベルに恋い焦がれ壁抜けの能力でアピールするも、乱暴な彼女の夫はイザベルを閉じ込めている。果たして彼女を救い出せるのか、その愛のゆくえは…?

フレンチミュージカルということもあってかこじゃれた舞台装置や衣装や小道具、役人や警察官、新聞売りに娼婦などの憎めないキャラクターたち、どこか絵画のようなナンバーの数々…『壁抜け男』のすべては観客に絶えず語りかける。「人生は素敵、人生は最高!」

 

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・歌も良いけどダンスが見たい!派へ

⇒迫力のダンスや群舞が特に魅力的な演目はこちら!

 

①ウェストサイド物語

わたしが劇団四季の中で一番好きな演目こそがこの『ウェストサイド物語』であり、この演目に深入りしすぎたがゆえにさまざまなものを失ったのだが(後述)、まあそんなこともいまでは良い思い出である。映画にもなっているため有名な作品だとは思うが、とにかく観てほしい、良いから観てほしい、後生だから観てほしい。なんならわたしがチケット取るからひたすら観てほしい。お願い。

舞台は1950年代後半、ニューヨークはウェストサイド。『ロミオとジュリエット』のストーリーを基盤にしながら、白人系ギャング・ジェット団とプエルトリコ系移民のギャング・シャーク団、ふたつの若者ギャングの抗争と、社会に渦巻く偏見や差別、運命的な愛、それらが引き起こす悲劇を描いた名作中の名作中の名作中の名作。「このミュージカルには神が宿っている。」というコピーに嘘も偽りもございません。

「プロローグ」から始まり「マンボ」「アメリカ」「クール」「サムホェア」エトセトラエトセトラエトセトラ*10、ジェローム・ロビンスの振付とレナード・バーンスタインの音楽が神がかり的に融合し、観客の心に強く激しく訴えかける。何度観ても新たな発見があり、何度観ても新たな思考が生まいやもう難しいことはいいからとにかく観て。

 

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なんと!!2016年2月14日より!!約3年ぶりに!!四季劇場・秋にて!!再演!!します!!劇場へ急げ!!

 

②コンタクト

ほぼ歌で構成されているミュージカルとは真逆で、そのほとんどがダンスで成り立っている異色の「ダンスプレイ」、それが『コンタクト』である。3編のオムニバス式となっており、part1は有閑貴族たちの戯れを、part2は夫に抑圧された妻の白昼夢を、part3ではエリート広告マンの幻影を、それぞれ”スウィング”をテーマに「ダンスで」描いていく。それぞれのパートで中心となる女性はピンクのドレス、青のドレス、黄色のドレスを纏っており、特に黄色のドレスの女は四季でもトップレベルの女性ダンサーが演じることが多いため、その存在感は際立っている。

ダンスが語るとはこういうことか、言葉がなくとも身体で語ることができるのかと、初めて観たときの衝撃はいまでも忘れられない。台詞はほとんどなく、ときに優雅な、ときに力強い、ときに抑えられときに放たれたダンスですべてを表現する。ダンスが好きな人もダンスに興味がない人も、一度は観てほしい。ダンスがもつ力は台詞や歌などの言葉同様に、あるいは言葉以上に、「正しく」伝えることができるものだときっと伝わる。

 

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③キャッツ

先ほども紹介したので詳しくは割愛させていただくが、『キャッツ』のダンスも非常に魅力的であることは改めて強調しておきたい。 序盤のナンバー「ジェリクルソング」を始め、「ジェニエニドッツ ~おばさん猫~」のタップダンス、「ジェリクル舞踏会」での圧巻の群舞など、一度観たら”猫”たちのダンスの虜になることは間違いない。

 

 

・ラブストーリーにひたりたい♡派へ

リア充なあなたやリア充に憧れるあなたに♡

 

①最強ハッピーラブコメクレイジー・フォー・ユー

ブコメミュージカルの金字塔といえば『クレイジー・フォー・ユー』!ダンスに夢中な銀行家のボビーは、母親の言いつけで物件を差し押さえに来たデッドロックでポリーという女の子に出会う。ボビーは一目で恋におち得意のダンスでアピールするも、ハプニングが次から次へと起こってしまい…!? 恋人がいる人もいない人も、ぜひ大好きな人と一緒に観てほしい、笑顔いっぱい嬉しさいっぱいの幸せなミュージカル。

クレイジー・フォー・ユー』のなによりの魅力は底抜けに明るいナンバーと思わず一緒に踊りたくなるタップダンスだろう。観たことがない方でも劇中ナンバー「アイ・ガット・リズム」は耳にしたことがあるのではないだろうか。「このリズム このミュージック この恋 他にはいらない」とポリーが明るく歌い上げながら、町の人たちとダンスを繰り広げる。一幕の最後を飾るこのナンバーは特にありとあらゆる幸せを詰め込んでいて、ふいに涙がこぼれるぐらいきらきらしているのだ。

難しいことはなにもいらない、ただ舞台にあるものを素直に受け取るだけでいい。それだけで心から楽しむことのできるこのミュージカルは、まさに大切な人、大好きな人と観るにふさわしい。 

 

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現在大阪にて上演中。来年1月初めに千秋楽を迎えてしまうので、気になった方は迷わず行こう。後悔はさせない。

 

②ディズニーが贈る古の愛♡アイーダ

こちらは『クレイジー・フォー・ユー』とは打って変わって、悲しくも美しい愛の物語。古代エジプトを舞台に、将軍ラダメスと、エジプトに捕えられ奴隷となったヌビア王女アイーダとの許されぬ恋を描いたディズニーミュージカルで、古代エジプトという舞台にふさわしく壮大なナンバーの数々が魅力的だ。

敵対する男女が図らずも恋に落ちる、というわかりやすく王道な設定でありながら、ラダメスの婚約者でありエジプト王女のアムネリスや、アイーダと同じくエジプト軍に捕えられラダメスの下で働くメレブ、王位を狙うラダメスの父ゾーザーなど、個性的なキャラクターたちとの関係性もまた観る者を惹きつける。さまざまな人物の思いが錯綜する中で迎える感動的なラストは涙なしには観られない。ディズニーと劇団四季というエンターテイメント同士の化学変化が、また最高のエンターテイメントを作りだしていると言える。

 

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2013年以来再演されていないが、はたして次の上演はいつになるのだろうか。

「愛に生きた王女」や「すべては、愛だ」といった、ちょっとずれたキャッチコピーに関しては目をつむりたいところである。

 

③絵画のような美しい恋♡アスペクツ・オブ・ラブ

上演頻度も高くない非常にマイナーな演目だが、フランスを舞台に複数の男女が織りなす複雑な恋愛模様を繊細に、ときに大胆に描いた、まるで絵画のような美しい作品である。一度観ただけではすべてを理解しきれないほど、そこには多くのメッセージや思いが込められており、何度も何度も観て聴いて感じて味わうことで徐々に身体の中に染み込んでいく、そんな作品だと個人的には感じている。

恋をすること、愛することとはなんだろう。観劇をしながら、観劇をしたあとも、そんな問いが頭の中をぐるぐると回ってしまうので、前2作品とは異なりこちらはだれかと観に行くより一人で観ることをおすすめしたい。「観る」というよりも、まるで「読んでいる」ような感覚に陥る味わい深い作品で、手放しに楽しめるような「ラブストーリー」ではないからこそ、改めて感じさせられる部分があるのではないだろうか。

 

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わたしの記憶では2012年からずっと再演されていないが、こういった作品もコンスタントに上演してほしいと切望する次第だ。

 

 

・本当はブロードウェイに行きたいけど時間ない…派へ

⇒ブロードウェイで人気のミュージカルも取り揃えております。

 

①ライオンキング

まさに劇団四季といえば!な作品で、2015年12月20日に日本上演17周年を迎え、その熱気は収まるどころかますます加速するばかりの名実ともに「国民的ミュージカル」。

内容についてはすでに周知かと思われるので割愛させていただくが、とにかくすごいのは人間が動物になりきるための工夫の数々である。シンバ・ナラ・スカー・ムファサといったライオン役が身に着けている装置はもちろん、サバンナの動物たち、ハイエナたち、ティモンとプンバァなど、それぞれの動物をその動物らしく再現するための装置の工夫、役者たちの工夫には感心せざるをえない。

また、二次元のフィールドたるアニメでは容易に表現できるヌーの大群や、「王様になりたい」でシンバとナラが動物たちと戯れる圧巻のシーンなど、三次元の舞台上でどう再現するのだろうという疑問が生まれがちな場面でもその工夫が光る。言葉で説明するよりも実際に観ていただいた方が早いと思うのでぜひ観てほしい。初めて劇団四季を観る方には安心しておすすめできる作品である。

 

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現在四季劇場・秋と大阪四季劇場にて絶賛上演中。大阪公演は来年5月に千秋楽を迎えてしまうので、気になる方はお早めに!

 

ウィキッド

オズの魔法使い』の「善い魔女」と「悪い魔女」は、なぜそうなったのか?彼女たちの知られざる友情、愛情、冒険と勇気を描いた感動ファンタジー大作が『ウィキッド』である。

のちに「悪い魔女」と呼ばれるようになるエルファバは緑の肌をもち、みんなから嫌われているが自分の信念を曲げない強い女性。対して「善い魔女」となるグリンダはブロンドのキュートな人気者。魔法の才能をもったエルファバと、魔法の才能はからっきしのグリンダは初めは反発し嫌いあっていたが、ある出来事をきっかけに親友となる。しかし、オズに隠された秘密がやがて彼女たちの進む道を引き裂いていく…。

とにかくスケールの大きいファンタジーで、「魔法使いと私」「自由を求めて」など圧巻のナンバーに、「人生を踊り明かせ」「ポピュラー」「あなたを忘れない」等々、一度聴いたら夢中になってしまう魅力的なナンバーたちが物語を紡ぐ。セットや衣装を始めとする舞台上の華やかさは一級で、視覚的にも素晴らしい最高のエンターテイメントでありながらメッセージ性も強く、文字通り何度でも観たくなる。「悪い魔女」とはなにか、「ウィキッド」とは?その答えがきっとある。

 

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2016年5月より札幌にて上演が決定しているので、お時間のある方はぜひどうぞ。

 

オペラ座の怪人

ブロードウェイミュージカルの中でも特に人気のある、だれもが知っている名作といえば『オペラ座の怪人』。日本での通算入場者数100万人を達成するなどいま現在も記録をつくり続けている演目である。

パリ・オペラ座の地下に潜む”オペラ座の怪人”は、かつて”音楽の天使”としてヒロインのクリスティーヌに歌を教えていた。クリスティーヌをプリマドンナに仕立てあげ、自分だけの音楽を歌わせようと願う”怪人”の愛と悲しみが、妖しい調べとともに劇場を支配する。一度聴いたらけっして離れないナンバーに魅せられること必至だ。

 

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現在名古屋にて大絶賛上演中。名古屋のオペラ座にとらわれにいこう。

 

・映画は好きだけど舞台はあんまり観ない派へ

⇒映画にもなっているミュージカルはいかがでしょう。

 

サウンド・オブ・ミュージック

言わずと知れた名作。先ほどから名作名作と名作がゲシュタルト崩壊しているような気がしなくもないが、それだけ劇団四季の演目は名作ぞろいということがおわかりいただけるだろう。それだけ劇団四季の演目は名作ぞろいなのである。

サウンド・オブ・ミュージック』は「私のお気に入り」や「ドレミの歌」、「エーデルワイス」などだれもが耳にしたことのあるなじみの良い音楽が魅力だが、なにより注目してほしいのはかわいい子役たちの活躍である。トラップ家の子どもたちとマリアが交流を深めていく様は非常に心あたたまるものがあり、特に「ドレミの歌」での子役たちの無邪気な明るさを見ているとこちらまで笑顔になってしまう。

家族の絆や愛情とともに、第二次大戦直前の緊迫した情勢をも描いたこの作品は、ぜひ家族や大切な人と分かち合ってほしい。

 

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四季劇場・秋にて1月31日までの上演となっているので、この機会をお見逃しなく。 

 

ジーザス・クライスト=スーパースター

イエス・キリスト最後の7日間を描いたミュージカルで、劇団四季では史実を再現した「エルサレムバージョン」と、隈取など日本的な要素を取り入れ大胆にアレンジを施した「ジャポネスクバージョン」がある。前者はエルサレムの熱気をも感じられる写実性、後者は独創的で予想のつかない舞台転換が魅力で、それぞれに良さがあるが個人的にはジャポネスクの方が好みだった。再演の機会があればぜひ実際に見比べてみてほしいと思う。

タイトルこそイエス・キリストを冠したこの作品、しかし重要なのはやはりユダの存在だと思う。終盤のナンバー「スーパースター」は、エルサレムバージョンでは度肝を抜かれるような衣装を纏ったユダが、コーラスガールとともにキリストへの思いの丈を歌い上げる。ミュージカル『ジーザス=クライスト・スーパースター』のユダはなにを裏切ったのか? 果たして裏切ったのか? ジーザスとユダというふたりの「青年」の物語はどのように幕を閉じるのか、ぜひその目で見てもらいたい。

 

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コーラスライン

コーラスライン』はオーディションを受けに来たダンサーたちの物語、舞台を描いた舞台である。最終選考に残り「コーラスライン」に立った17人のダンサーたちに、演出家ザックは履歴書に書いていない、彼ら自身の物語を語るよう問いかける。華やかなショービジネスの世界、その裏側に隠された苦悩…「舞台」のためにすべてを捨てて生きた日々を、彼らは悔やまない。

わたしたちが目にしている「舞台」とは、言うまでもなくあくまで表出した部分にすぎない。『アプローズ』のナンバーにもあるように、「稽古の苦しさ 笑顔に隠して 生きがいはすべて 舞台の上だけ」なのだ。彼ら彼女らの過去・人生・人間性は、舞台の上ではいったん忘れ去られる。その忘れ去られたもの、忘れ去られるべきとされるものについて、この『コーラスライン』は描いている。「悔やまない 好きだからこそ 命燃やし すべてを捨てて 生きた日々に悔いはない」彼らの、彼女らの生き様が舞台にある。

舞台を始めショービジネスという隔離された空間を愛する人にもそうでない人にも、このミュージカルのもつメッセージは深く響くのではないだろうか。

 

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2016年4月17日より東京リターン公演が決定している。開幕を待たれよ。

 

 

・ディズニー大好き!派へ

⇒ディズニー×四季、充実のラインナップ。

 

美女と野獣

ディズニーと劇団四季が初めてコラボしたのが『美女と野獣』で、1995年初演という実に長い歴史をもつ。

ディズニーアニメの『美女と野獣』を舞台上で忠実に再現しており、特に物にされた野獣の召使いたちがベルを歓迎する「ビー・アワ・ゲスト」は息をすることすら忘れる圧倒的な迫力ときらびやかさである。わたしは初めてこの「ビー・アワ・ゲスト」を観たとき、悲しくもないのに涙があふれて止まらなくなるというのを生まれて初めて体験した。ただただひたすらに圧巻で、豪華で、素晴らしくて、自分のキャパシティーを超えたエンターテイメントの量に脳が処理しきれなかったのかもしれない。自分でもわけがわからないくらい泣いて泣いて泣いて、それから『美女と野獣』というミュージカルに夢中になった。

アニメ版にはないビーストのソロナンバー「愛せぬならば」も素晴らしく、一幕の最後を飾るビーストの悲痛な叫びに、やはり涙があふれてくる。「人間に戻りたい」「美女と野獣」といったアラン・メンケンの名曲はもちろん、ガストンと街の人たちとのマグダンスといった目でも楽しめる内容は大人も子どもも等しく夢中にさせる。

 

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1月17日に仙台公演が千秋楽を迎えたあとは福岡での公演が決定している。

 

②ライオンキング

アイーダ

詳細は割愛。余談だが、『アイーダ』はカーテンコールの際にダンスを披露してくれるため、ダンス好きとしてはかなり嬉しい。 

 

④リトルマーメイド

⑤アラジン

近年劇団四季が力を入れているのがこの新作ディズニーミュージカル2作品。わたしはまだ観たことがないので詳しいことはわからないが、どちらもディズニーらしい華やかでハッピーなエンターテイメントだと聞き及んでいる。特に『アラジン』は公開したばかりでチケットもなかなか入手しにくいとのことだが、機会があればぜひとも観てほしい。わたしも早く観たい。

 

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『リトルマーメイド』は来年10月に名古屋でも上演されることとなっており、関西圏にお住まいの方にも気軽に観られるようになる。 

 

 

・でもやっぱりミュージカルはちょっと…派へ

⇒そんなあなたにはストレートプレイ!

 

劇団四季は設立からかなり長い間、ストレートプレイ専門の劇団だったこともあり、ミュージカルメインとなった現在も積極的にストレートプレイを上演している。もちろんストレートプレイでも前項で紹介した「劇団四季メソッド」は確立されており、はっきりした発音での台詞が特徴的である。

現在上演されているストレートプレイ作品はないが、そのレパートリーは非常に広い。上演期間があまり長くないことが多いため、もし気になる作品があった際は早めに観劇されることをおすすめしたい。

わたしが観劇したことのある作品は『ひばり』と『この生命誰のもの』の2作品だが、特に『この生命誰のもの』はほとんど舞台転換が起こらず、主人公の長台詞を中心に進んでいくことに驚いた。ミュージカルとはまた違った味わい方のできるストレートプレイ、ぜひ一度観劇してみてはいかがだろうか。 

 

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さて、大変長くなってしまった。冗長ゆえ逆効果になってしまうことを恐れながらも、わたしはもてるすべてをもってして劇団四季を多くの人に勧めたい、とにかくその一心である。ミュージカルに興味がない方も、すでに興味がある方も、いま興味が生まれた方も、とにかく観てほしい。日本の演劇界をリードする劇団四季、その舞台の上には最高のエンターテイメントがあることを、このわたしが約束する。

 

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ついでに。もしすでに四季好きで、NEWSのファンでもあるよという方がいたら、以前書いたこちらの記事も合わせて流し読みしていただけたらとても嬉しい。NEWSのメンバーそれぞれに歌ってほしいナンバーを勝手に選出してみたという記事である。ほかの方の意見もぜひうかがいたい。

 

hnl2pe.hatenablog.jp

 

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まだ続くのかよ、という声が聞こえてきそうな感がしなくもないが、まだ続く。ここから先は単なるわたしの思い出話である。簡単に言えば四季にはまりすぎて失ったものもあったけど人生楽しかったよというだけの話だが、この機会に記しておきたくなったので恥も外聞も捨てて書き記す。

 

3.劇団四季と私

わたしが劇団四季にはまったきっかけは『キャッツ』だった*11。初めて観るんだからケチってはいけない!という謎のポリシーのもと、もっとも高いS席(当時非会員だったので9800円)エリア、その中でもセンターの席を取った。それがすべての始まりだった。

 

観劇の日まで、わたしはあらゆる手段を使って『キャッツ』のことを調べまくり、本来ならばガチガチのガチオタしか把握していないような、猫たちの顔が隠されている場面でどの猫がどこにいるか等の知識をも頭に叩き込んだ。いまにして思えばなぜそこまで必死だったのか理解に苦しむが、当時のわたしはとにかく初めてのミュージカルが楽しみで仕方なく、そのパッションがあふれた結果がそれらしい。観劇10日前ほどからカウントダウンと称し夜な夜な絵を描いていたことを思い出す。猫オタになる気満々じゃねえか。

そんなちょっとずれた(?)パッションの発散の仕方をしつつ、観劇当日。開演から終演まで、一秒たりとも舞台から目が離せなかった。わたしの知らない世界がそこにあり、知識で得たことなどなんの役にも立たないことを思い知った。舞台には舞台という世界があり、その世界の中に役者たちは生きている。そのことを感じて戸惑いすらしたし、その世界をそれまで知らなかったことが本当にもったいないと思った。

 

予想通り『キャッツ』に夢中になったわたしはさっそく次のチケットを予約した。当時『キャッツ』は横浜で上演しており、日本での上演回数通算8000回が目前に迫っているころだった。8000回目の公演はさすがに人気でチケットも売り切れていたため、8001回目の土曜マチネと、8002回目の土曜ソワレを取った。

前述の通り、『キャッツ』にはカーテンコール前に握手タイムがある。どの席にどの猫が来るかはあらかじめ決まっており、ファンがそうした情報をまとめてネットにあげてくれていたため、調べれば簡単にわかった。わたしはマチネはランパスキャットという猫と握手をし、ソワレでギルバートという猫と握手をした。

ギルバート。その猫が、その猫を演じていたダンサーが、わたしの人生をまた変えた。

そのときギルバートを演じていたのは新庄真一さんというダンサーさんだった。びっくりするぐらいの大きな目、きらきらとした笑顔とともに差し出された手を、わたしはおずおずと握った。ギルバートはカーテンコールのためにすぐ舞台へ戻っていったが、わたしはそれからずっとギルバートから、そのダンサーさんから、目が離せなかった。おちた。完全におちた。完膚なきまでにおっこちた。ジャニオタの世界で言い習わすところの、「横浜猫出の新庄担」誕生の瞬間である。

 

さてそれからのことは、おおよそ予想のつく通りだった。新庄さんはその後しばらく横浜キャッツに出演し続けたため、わたしは毎週末のように横浜に通った。一度気になれば視線はおのずと集中する。集中すれば、彼のダンスの魅力に気づく。きっかけはきらめくような笑顔だったかもしれないが、徐々に新庄さんのダンスに、彼のダンスのもつ「語る」力に魅了されていった。

途中、コリコパットという猫にシフトチェンジしたり、かと思えば一瞬ギルバートに戻ったり、とにかくどちらの猫であっても彼が出演する限りキヤノン・キャッツ・シアターに足しげく通い続ける日々が続いた。毎月一度は必ず差し入れとファンレターを携え*12、クロークのおねえさんにどもりながらお願いしますと差し出し、舞台上での新たな発見があれば翌月のファンレターにしたため、同じことを繰り返した。それらのすべてはとても幸せな時間だった。

横浜キャッツと横浜キャッツの間に『エビータ』を挟んだり『美女と野獣』を挟んだり、『アイーダ』に夢中になってみたり、猫オタにとどまらず着々と四季オタとしての道を歩みながら役者オタの道をも堅実に進んでいたわたしの世界は、完全にそれ一色に染まっていった。

 

そうして四季に目覚めたのは大学1年生の秋。四季オタとして順風満帆な日々を送りながら、やがて2年生の夏に恋人ができた。

一度でもオタクをしたことのある方ならご理解いただけるのではないかと思いたいのだが、オタクとはオタクなのである。寝ても覚めてもオタクであるし、雨が降っても風が吹いてもオタクであるし、恋人ができたってオタクなのである。わたしは四季やダンサーさんに全力を注ぐあまり、恋人の誕生日をすっかりすかすか忘れてしまうという暴挙を犯した。わたしは骨の髄までオタクだった。オタクであることを言い訳にすることなどできないほどの暴挙であることはわかっているのだが、そのことが我々の関係に暗い影を落とすことは避けようのない展開であったし、不注意による暴挙で関係にひずみを生じさせてしまったことをいまでは深く反省している。

かくて我々の関係存続をかけた話し合いの場が設けられた。彼は言った。「そんなにそのダンサーが好きなの?」わたしは答えた。「好き」彼は問うた。「そのダンサーって男でしょ?おれがいるのになんでそっちに夢中になるの?」わたしは戸惑った。その好きとこの好きは違うではないか。彼は続けた。「おれと会うのって月に一度だよね。舞台には月に何回?」わたしは申告した。「4回とか5回です」「いやおかしいでしょ」…おかしいのだろうか。

わたしの胸にひとひらの疑問を残したまま、互いに理解しあえなかった我々の関係は修復不可能となり、うまくいけば日本の未来を担ったであろうひとつのうら若きカップルは消失した。わたしはその後、変わらず月に4~5回、ミュージカルを観続けた。

 

彼と別れたあと、『ウェストサイド物語』という作品との出会いはみたびわたしの人生に大きな変化をもたらした。横浜キャッツの千秋楽と入れ替わりに開幕したこちらの演目にも新庄さんが出演することを知り、気合を入れて初日に駆け付けた。

初めて観たそのときから、今度は『ウェストサイド物語』というミュージカルそのものに夢中になった。上演期間が短かったということもあり、週に2~3回の頻度で通い詰めていたことはいま思い返せばやや異常かもしれない。そうしてあふれる情熱をすべて観劇という形で昇華していたせいか、2012年12月24日に向かえた千秋楽後には、文字通り「燃え尽き症候群」に罹患してしまったのだ。

『ウェストサイド物語』のない人生に希望を見いだせず、なにをしても気分が上がらない。今日も明日も明後日も、劇団四季の『ウェストサイド物語』を観ることのできない日々が続いていく。ほかの演目を観に行く気力すら失せ、さらに追い打ちをかけるように新庄さんは地方の演目にばかり出演するようになり、そして無情にも幕を開ける就職活動という試練。さまざまな事情により地方に行く余裕もなく、まさに暗黒時代の幕開けだった。

燃え尽き症候群」に引っ張られいつしか観劇そのものへのパッションは鎮火していき、ときたま東京で上演される演目に新庄さんが出演されるときだけ、1,2回観に行く程度にまで落ち着いた。そのうえそこに予想もしていなかった、まさかまさかのジャニーズとの出会い。わたしは完全に四季オタから「劇団四季の舞台が好きな人」になったのだった。かつて四季オタのために恋人とも別れた面影はもはやない。

 

しかし、歴史は証明している。歴史は繰り返すと。わたしの中の四季オタの炎はいま、青く静かに、そして赤く激しく燃え盛ろうとしている。

 

『ウェストサイド物語』が!!2016年2月14日より!!約3年ぶりに!!四季劇場・秋にて!!再演!!します!!劇場へ急げ!!

 

わたしの四季オタ人生の幕は、いまだ閉じない。

*1:善き学生のみなさんはけっして真似してはいけない

*2:毎月違う演目が選ばれ、それに出演している役者数名が原稿を書く。楽屋写真もあるため該当オタにとってはこのうえなく貴重な記事

*3:噂によれば浅利慶太氏が前線から退いた最近はそうでもないようである

*4:実際、知り合いの中にはキャスト目当てに遠征したものの当日の急なキャス変にキャスボ前でくずおれた人もいた

*5:序盤のナンバー「変わり者ベル」のこと

*6:「演目名 香盤表」で検索するとアンサンブルをまとめたサイトも見つかるので参考までに

*7:一般は15:00~だったはず

*8:Amazon.co.jp: 劇団四季メソッド「美しい日本語の話し方」 (文春新書 924): 浅利 慶太: 本

*9:察しの良い方なら気づかれたかもしれないが、ゆえに役者オタを生みやすい演目でもある

*10:『ウェストサイド物語』劇中台詞より引用

*11:『キャッツ』と出会ったきっかけもまた別にあるのだが話が冗長になってしまうので割愛とする

*12:なぜか差し入れとファンレは月一回のみという自分ルールを作っていた